2011年11月29日火曜日

悲惨を極めた「菅原組」の強制労働



多賀城海軍工廠での強制労働(具然圭さんの証言)
私(具然圭)の故郷は忠清南道である。父は小作人で家が貧しく、学校には行けなかった。1943年9月、日本に行くという「募集」があったので応じた。父母は反対するだろうから、だまってきた。契約は1年である。同じ村から十何人か一緒だった。一旦「京城」で服を着替え、それから汽車で釜山についた。「日本に行けるんだ」と無性に嬉しかった。船底にムシロが敷いてあり、会社の幹部が「北海道で一年位働くことになるが、待遇はよくする。」といった。そのまま小樽へ、そして釧路へ、やがて千島に着いた。船は大きく揺れ、食事はすべてカンパンであり、一回にカンパン三つづつくれた。
着いた翌日から仕事に掛かったが、それは海軍の飛行場建設であった。「自分」の属していたのは菅原組で、ここはタコ部屋であった。
仕事は始めからトロ押しで、終わりまでトロ押しをやらされた。食事は細長い外米でくさかったし、量も食器に盛りきり一杯で、おかずはなく汁一杯だけであった。バラック小屋に寝かされたが、枕は長い丸太でできていた。妙な枕だとは思ったが、そんな枕を使う理由は一晩寝て判った。早朝全員が眠りこけているとき、幹部が、丸太枕のはしっこをコン棒で力一杯たたくのである。一瞬何事かとビックリしてはね起きた。「自分」はある発破かけの際、発破穴をのぞき、その時不意に爆発したため右目をやられた。今もよく見えないこのい目だが、目をやられて血が流れ出るのに病院にも行かせず医者にもっかけなかった。やむなく手ぬぐいで間の部分を押さえて仕事を続けた。
奴等はよくなぐった。気絶して倒れたら水をかけた。死んだらタキギを集めて死体をのせ、油をぶっかけて焼いた。死んだ人は何人もみた。監視が厳しい。飯場から別の飯場には絶対に行けなかった。半年で仕事を終わって日本に行くといわれたが、給料なんかもらったこともなく、金はみたこともない。
日本に行く途中、逃走しようと機会をうかがったが、便所にまで番兵がいるのでできなかった。仙台から多賀城に着き、大きな倉庫に入れられたが窓もなかった。これが菅原組の松原飯場であった。
大きな錠前があって、夜は錠をかけ終夜番人が行ったり来たりした。またセパードを飼っていて、夜は放し飼いにした。夜具は毛布二枚だけであったし、食事は千島と同じでメシと汁だけだ。
朝は飯場の前で整列させられ番号を呼ばれた。名前など呼ばず番号で呼ぶので他の人の名も互いに知らず過ごした訳だ。現場までは二十分位歩くが、並んで歩き、これに監督が四人に付き一人づつ付いていた。着物はいつも作業ズボンで一着もらえば何ヶ月もくれなかった。上はいつも裸同然で、ズボンもボロボロで半ズボンみたいだった。多賀城には一年以上いたが、風呂には一度も入ったことがない。勿論、千島でも入れてくれなかった。床屋もない。そして、夏も冬もハダシであった。ひるメシは握りメシ一個であった。冬は凍ってコチコチであった。トロ押しでよごれたままの手でその握りメシを食うのだが、仕方がないのでセメント袋をちぎって、その紙でメシをうけて食べた。その紙を大事にしまっていつもその紙で受けて食べていたが、しまいにはゴワゴワに固くなって折りまげられなくなった。
一年の「契約」期限が近づいた。皆で「二度と日本にくるもんではない」といいあった。期限直前、警察がゾロゾロ入ってきた。「あんた方はよく働いてくれました。ごくろうさんです」といった。「このバカヤローたち何をいうつもりだい」と思った。朝鮮人である隊長、班長が交互に「もう一度契約しろ」と朝鮮語でいった。それまでが我慢の限度だった。皆は手に手に棒や薪、手当たり次第の獲物を持って隊長や班長、菅原組の幹部や警察官(特高警察)らを襲いたたきのめした。十何人もいた警官らは逃げた。やがて海軍がきた。隊長が「仕方がないからもう一年やろう」といった。皆は従った。…
(「東北地方における朝鮮同胞強制労働と虐待の実態について」琴ビョン洞著より)



海軍は船岡火薬廠を守るために、米軍機の太平洋側からの攻撃にそなえ、同火薬廠の東側にある三門山(みつもんやま)に高射砲陣地を築くことにし、菅原組に請け負わせた。「昭和18年11月14日」と日付があるがほとんどが上半身裸、裸足であり、タコ労働の過酷さが伺われる。ネット上でタコ人夫の写真を見かけることもあるが、場所・日付が未確定のものが多いなか、タコ労働の実相の一端を伝えるこの写真は極めて貴重なもの。日付入り写真なので竣工記念写真と思われるが詳細は不明(わかり次第加筆します)。この写真は2003年10月に「くらしと民主主義、史跡・緑を守る多賀城懇話会」が多賀城市立図書館で行った『造営から60年―目で見る多賀城海軍工廠展』の際、和泉和歌子氏より提供を受けた。




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